RESORACLE ─ Heartbeat Verification System ─
Megumu Hanayama
サウンドアーティスト |Japan
OTHER PERSPECTIVE
DETAILS OF THE WORK
人間の「存在のあり方」は、テクノロジーの進化とともに急速な変容を遂げてきた。2016年のVTuber登場から、2018年のVRChatの台頭、そして2020年のパンデミックによるオンラインコミュニケーションの一般化を経て、デジタル空間での存在は「特別なもの」から「もう一つの日常」へと変化していった。そして2024年のApple Vision Proの登場は存在のあり方にさらなる変革をもたらした。その「空間ペルソナ」機能は、装着者の表情や目線、物理的位置までもがリアルタイムに反映される驚くほど自然な「誰かそのもの」として空間に立ち現れる。しかしそれらと同時に2022年以降のAI技術の急速な発展も相まって、デジタル空間における存在の真正性への問いも深まっている。
本作品RESORACLEは、この問いに対する一つの応答として生まれた。「共鳴/想起」を意味する"Resonance"と「神託/啓示」を意味する"Oracle"を組み合わせて命名されたこのシステムは、心音という人間の生命活動に不可欠かつ複製やシミュレートが困難な生体音を用いて、「存在の確かさ」を感じ取ろうとする試みである。このシステムは専用アプリとVision ProをOSC通信で接続することで稼働し、心音が”RESONITE(存在の結晶)”という名の脈動する赤い粒子として可視化され浮かび上がる。その空間は、自身や他者の存在をより生々しく象った空間であり、それはデジタルとフィジカルが交錯する世界の中で、我々が依然として心臓を動かし続けている存在であることを再確認する、極めて個人的な体験となるのである。
CREATOR PROFILE
Megumu Hanayama
サウンドアーティスト |Japan
1997年東京生まれ。これまで作曲家として劇伴制作やオーディオ・ビジュアルライブへ出演する他、身体と音の同期性を巡るグロテスクなサウンドアート作品やパフォーマンスを発表してきた。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業後、多摩美術大学大学院美術研究科情報デザイン領域修了。現在は作家活動の他、電子楽器メーカーのサウンドエンジニアとして主にサウンドプリセット作成に携わる。
X: https://x.com/MegumuHanayama
Instagram: https://www.instagram.com/rutvutdut/
Youtube: https://www.youtube.com/@MegumuHanayama
HP: https://megumuhanayama.com/
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ハウスミュージックの基本は120BPM前後である。このBPMは120が頻脈とされる心拍に由来している。つまり心拍と共鳴しあってダンスフロアの波動は脈打っているのである。この作品「RESORACLE」は「共鳴/想起」を意味する"Resonance"と「神託/啓示」を意味する”Oracle"の造語であるが、このメタフィジカルな作品は、マッシヴデータフロー時代における極めて本質的なデータマイニングを導き出している。"存在の結晶"としての心音は、個人情報が保護される現代において、脳波と共に新しい身体紋理となるであろう。極めて2024年的なビッグデータにおける問題意識と可能性を世に放った作品である。
NEWVIEW AWARDS 2024 審査員長
宇川直宏
現”在”美術家|DOMMUNE主宰
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「RESORACLE ─ Heartbeat Verification System ─」は、テクノロジーを通じた繋がりを探求する魅力的な試みであり、私たちの存在の中で最も力強く、かつ人間らしい側面である「心」を中心に据えています。心は、物理的な領域と感情的な領域を繋ぐ強力な架け橋であり、生命を維持するだけでなく、感情を調整し、認知に影響を与え、その生物学的、エネルギー的、そして象徴的な意味合いを通して深い人間的な繋がりを育んでいます。
デジタル空間が日常生活にますます溶け込んでいく現代において、鼓動を存在の印として、脈動する「RESONITE」粒子として視覚化する試みは、詩的でありながらも深遠で、デジタルな存在をより実感できるものにしています。この作品は、仮想空間における体現された存在感に対して独自の視点を提供し、テクノロジーを現実的で生物学的、そして人間的なものに根ざせるようにしています。仮想空間であっても、私たちの存在はただ視認されるだけでなく、感じ取られるものであるということを思い出させてくれます。
私は、テクノロジーやデジタル空間において、より「心」を中心としたアプローチが広まることを心から願っています!
NEWVIEW AWARDS 2024 審査員
KEIKEN
アーティストコレクティブ
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人間の最初の記憶は母親の鼓動の音なのかもしれない。
ネコをモフって顔をうずめるときにも、生き物の存在を確認するときに否応なく感じるエンジン音。
この心臓という楽器のような臓器。人生において原初的な体験でもあり、欠かせない臓器の音をコミュニケーションのツールにして生のリズムを確認し合う。
生命というものを定義するときに身体から発せられる音に注目をするという以上に、存在としての鼓動そのものを問うているところを面白く感じた。NEWVIEW AWARDS 2024審査員
サエボーグ
アーティスト
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RESORACLEは、デジタル空間における存在のあり方を探求する作品であり、技術の進化やオンラインにおける人の存在の変容に応えてます。人間らしいシグナルである心拍を用いることで、デジタルと現実の境界が曖昧になる世界の中で、自身の身体的な存在を詩的かつ個人的な方法で再確認する機会を提供しています。ソフトウェアやプレゼンテーションの細部にまでこだわりが感じられ、作品としての完成度が高く、非常に魅力的な仕上がりとなっています。
NEWVIEW AWARDS 2024 審査員
David OReilly
マルチディシプリナリーアーティスト
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Resoracleは、XRの持つ社会的な可能性を深く掘り下げ、このアワードにおいて際立った貢献を果たしている作品です。インタラクティブな拡張現実がますます没入感を増していく中で、私たちの自己像や自己体験がどのように変容していくのかという本質的な問いを投げかけています。これは単なる技術的な発展の話題にとどまらず、芸術的な考察や内省においても極めて重要なテーマです。
さらに、本作は空間コンピューティングの活用領域全体を見渡し、今後この新たな技術がどのように進化していくのかを考察する機会を提供しています。芸術表現のためのツールや舞台として、そしてコミュニケーションの可能性を拡張する手段として、XRが持つ多様な方向性を示唆しているのです。 その意味で、本作はアワード受賞にふさわしいだけでなく、アーティステック・リサーチが成し得ることの力強い証明でもあります。NEWVIEW AWARDS 2024 審査員
Gerfried Stocker
メディアアーティスト|Ars Electronica総合芸術監督
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これは、仮想体験の中心に人間を置いた新しいアイデアです。AIの台頭により、ユーザーが本物の人間とやり取りしているという事実に対する信頼は、没入型体験においてますます重要な問いになるでしょう。 バーチャルリアリティーとミクスドリアリティーの技術は、デジタル上で人々をつなげる強力な手段を提供しますが、AIによるアバターや仮想人間が登場することで、ユーザーは相手が本当に人間とやりとりしているのかを判断することが難しくなっています。RESORACLEは、最先端のXR技術と人間の生物学的な基本的要素である心拍を組み合わせたソリューションを提供します。 また、テクノロジーが急速に進化する中で、AIと共存する未来において、どのように自分たちの人間性を確認するのかという問いも提起しています。これは、ほぼ避けられない現実のように思えます。
AWE PRIZE審査員
AWE
FEATURING WORKS
ファッション・音楽・映像・グラフィック・イラストレーション...etc
同時代のリアルな感覚を共有できるアーティストとともに創造する新たなカルチャー体験の作品群。