漂流物たち
伊藤道史
アーティスト |Japan
OTHER PERSPECTIVE
DETAILS OF THE WORK
このARでは「落とし物たち」が、鑑賞者の上方や周囲に広がり、地面に転がる私たちを見下ろしている。地面に転がる私たちを、彼らもまた見ている。そこにいる私たちや、渋谷自体も、落し物/忘れ物のように思えてくる。
渋谷を歩いて見つけたのは、たくさんの「落とし物」だった。昨晩の記憶を留めたような空き缶や食べ物、保険証や免許書、プリクラなど、プライベートな情報、故意に捨てられただろう粗大ゴミ、中に何が入っているのか不明なトランクケース、ネズミの死体。
この地面は覚えているのではないか。その上に降り積もった全ての足跡や、すべての埃や枯れ葉の堆積。誰かが床に寝そべったこと、車が走ったこと。365日のうち、いくらかの日に降り注いだ雨や雪。地下水道や電線が張り巡らされたこと。ここに川があったこと、火山活動。その全てを。
私たちが知覚できないだけで、道を歩くときの足音も、地面がレコーダー(記録媒体/記録媒体)としてこちらを見ているのだ。
渋谷の3DCG、渋谷で撮影した写真を肌理としたオブジェクトたちが、渋谷の街であなたたちの前に現れる。
「しぼんだ谷」が語源のひとつという説のある渋谷で、彼らは揺蕩っている。
情報がカオティックに私たちを取り囲む時代に、私たちはまるで自分たちが落とし物になったかのように思える。行方不明な存在,周りに気にも止められない存在として、都市をただよう私たちに、落し物は眼差しをむけている。
CREATOR PROFILE
伊藤道史
アーティスト |Japan
アーティスト。感覚や世界認識の体系を組み替え創造する芸術のあり方を、VRや詩を用いて探究する実践を行う。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。主な展覧会に、2024 巡回展 GROUNDS RENDERER(デカメロン/表参道ヒルズ/代官山ヒルサイドテラス/PARA神保町/NEUU/東京藝術大学、2024)や、「NEWVIEW FEST2023」(渋谷PARCO、2023)、「個展 CONATUS/私であることの試み」(NEORT++、2022)など。主なキュレーションに、目映さのバックアップ(まぶしさのバックアップ)/Backup of the Eye’s Reflection(NEUU、2024) 、Beyond The Frame Festibal 2024など。
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「Lost Item」は、多くの優れたアイデアや丁寧に実行されたプロジェクトの中でも、審査員が評価する中で特に際立った存在です。XRにおいて「ロケーションベース」という概念は長らく重要な要素でしたが、空間コンピューティングというより広い視野を探求・定義していく中で、その重要性はさらに増しています。
このプロジェクトの真の強みは、ロケーションベースの体験を、単にGPS座標が重なるだけのものとしてではなく、根本的な創造的フレームワークおよび前提条件として捉えている点にあります。特定の場所に物語を投影するのではなく、「Lost Item」は、その場所に刻まれた、あるいはその場所で人々がどのように利用し交流してきたかという歴史から物語を抽出します。
見つけ出されたオブジェクトは、視覚的かつ概念的なデザインのメタファーとして機能し、ユーザーがその場所自体だけでなく、そこに起こった出来事にも自由で推測的な形で関与できる、時を超える連続体を生み出しています。
改めて、XRがどのような存在になり得るのかという私たちの理解を大きく広げるプロジェクトであると感じさせられました。
NEWVIEW AWARDS 2024 審査員
Gerfried Stocker
メディアアーティスト|Ars Electronica総合芸術監督
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この作品の制作と創造性は印象的であり、アーティストが創作に多大な努力を注いだことが明らかです。キャラクターのスケールや視点の描写は、私たちの従来の物理世界の理解を超えており、AR技術の使用がこのような世界を体験するのに最適なフィットとなっています。この革新的なアプローチにより、観客は拡張現実を通じて現実の認識を拡大し、変革的な方法でアート作品に関与することができます。
NEWVIEW AWARDS 2024 審査員
Lu Yang
アーティスト
FEATURING WORKS
ファッション・音楽・映像・グラフィック・イラストレーション...etc
同時代のリアルな感覚を共有できるアーティストとともに創造する新たなカルチャー体験の作品群。