NEWVIEW SCHOOL 第2期 レポート 「基礎講座:3次元空間表現とは」講師:伊藤 ガビン
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注:Zoomの背景映像 ©タナカカツキ
NEWVIEW SCHOOL2020、本格的な講義がスタートしました。記念すべき最初の講義は「基礎講座:3次元空間表現とは」です。
講師は「編集者」としてゲームや展示空間、広告や映像など多方面でご活躍されている伊藤ガビンさんです。
既存の表現にとらわれず、3次元空間ならでのコンセプトやカラクリを企画をするとき、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか?
講義ではその独特な語り口と多様な事例を交えて、三次元空間の捉え方、VRの意義、そして新たなアイデアの着想について様々なヒントを教えてくださいました。
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VRは町人文化、時々ハイアート
「VRは映像ではない」こう切り出したガビンさんは、あいちトリエンナーレで出展した『Modernfart Magazine』という作品を取り上げ「没入感」とは何かについてこう語られました。
「実は、没入感を売り文句にしてるハイテク表現ほどメディアート『風』なものが多く、高尚な表現をしているような素振りを見せているけど、この作品のモチーフに金魚や花火を使っていることからわかるように『町人文化』と捉えるとスッキリする」
VRは新しい表現としての文脈を踏まえた場合、時よりハイアートとなるが、本質的にはエンタメ的な要素が強い。『メディアアートの皮を被った町人文化』と表現されていました。
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The actual position of the haunted swing while the ride is in motion. From Magic; stage illusions and scientific diversions, including trick photography, p. 92.(1897) / 不明, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
次に、昔から最近のテーマパークの事例まで含め、非常に幅広い「イマーシブ」の表現を紹介されました。
例えば、リュミエール兄弟のシネマトグラフで撮影された映画「ラ・シオタ駅への列車の到着」。
https://www.youtube.com/watch?v=NmxktCi6zoQ
1935年に3D版が上映された時には、「観客が逃げ出した!」という、いささか“盛った”エピソードも言い伝えられているそうです。現代では、遊園地のアトラクションとして「びっくりハウス」があり、周りの壁が動くことで不思議な没入感を得ることができます。
こういった見世物小屋の装置により、今立っている場所が危うくなったり、建物がくらくらする感覚はまさに「重力の揺らぎ」とも言えます。そういった「スペクタル」な表現こそがVRの面白いところなのだそうです。
アナログな視点だからこそ得られる意外な気付きが多くあり、受講生も納得の様子でした。
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VRはだまし絵的な存在である
Gloria di Sant'Ignazio (1685) quadratura di Andrea Pozzo / CC BY-SA 4.0
またVRは「騙し絵」的な存在である。
『MODERNFART MAGAZINE』での細馬広通さんの解説(※1)を取り上げ、アンドレア・ポッツォという画家による遠近法を活用した教会の騙し絵を例に、「これこそまさに当時の人にとっての『没入感』なのだ」と紹介されました。
この壁画には最初はバレバレだが、ある一点(遠近法的に正しい場所、神が世を見ると指定している場所)に立った時に美しい(正しい)世界が見ることができるという意味があるそうです。
※1 『MODERNFART MAGAZINE』「没入感の歴史を振り返る(http://www.modernfartmag.com/history/) -
「眼鏡画」鈴木春信, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
日本の事例としては、浮絵に写るレンズのようなもの、これは「眼鏡絵」と呼ばれるもので、45度傾けた鏡に移した絵をレンズを通し覗くものだそうです。これも当時にとってのVRだと捉えることができます。
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イマーシブな表現とはずっと昔からあり、
同じモチーフが使われているpan (1915 by Elstner Hilton) / A.Davey from Portland, Oregon, EE UU / CC BY 2.0
ここまで、幅広い「イマーシブ」表現の事例を紹介していただきましたが、「基本ね、むっちゃクラクラしたいんですよね、庶民は」と総括されていました。
そういった欲望に対して、歴史的に様々な形で「VR」というものが存在してきたのだそうです。
江戸時代よりもずっと前から、イマーシブな表現というのはずっとあり、そこで使われているモチーフは案外ずっと同じものなのだと。
xRの表現を考える私たちは、デジタルの3次元空間のことのみにフォーカスしがちです。しかし、本質的に人間が惹かれるものは、「重力」「スペクタクル」「遠近法」「抽象化」「くらくら」「ビカビカ」など、実は100年以上前から共通している概念なのかもしれません。
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グループワーク
「電気を使わないVRを妄想してください」60分の座学講義が終わり、休憩を挟んで、グループワークへと移りました。
お題は30分で「エレクトリックな仕掛け抜きで没入体験をデザインしてください」というもの。オンラインでの開催でしたが、受講生の皆さんは各グループで活発に議論していました。
議論が盛り上がる中、30分というのは非常にあっという間でした。各班急ぎ足で、ガビンさんによる講評に向けて発表資料をまとめました。
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発表が始まると、「入浴剤とお風呂を使ったアナログVR」、「味覚における錯覚を利用した高級寿司屋VR」、「10ヶ月かかるウォータースライダーで産まれる瞬間を再体験するVR」、「寝ている状態に物理的な刺激を与え、夢の中をデザインするVR」など、各班とも斬新かつ面白い提案をしており、講評は大盛り上がりでした。
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個人ワーク
とにかく邪悪なVRのアイデアを考える次は個人ワークの時間。お題は「VRを政治目的に使います。その時、最も邪悪な使い方を考えてください。」というもの。ここは一転して、ダークなお題となりましたが、ガビンさん曰く、企画段階で一度「タガを外して考えること」は非常に大切とのことです。
個人ワークでも受講生は非常に沢山の面白いアイデアを作り上げていました。選挙活動で洗脳を行うVRや、現実とは裏腹に人生観を変えられてしまうVR、人種差別の刷り込みVRなど非常にダークなアイデアが沢山飛び交っていました。 -
そして、講評では「もうすでに現実でやられてるのも多いな…」という意外な指摘もありました。
敢えて、「常識」から外れて発想することで、あたらしいデザインが可能になるのかもしれません。このワークショップを通して受講生はそれぞれ新たな気付きを得ることができたのではないかと思います。
Text : Shoichiro Sato (NEWVIEW SCHOOL学生インターンシップ)
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